2022.06.04
妻と女の境界線 Vol.1結婚したら、“夫以外の人”に一生ときめいちゃいけないの?
優しい夫と、何不自由ない暮らしを手に入れて、“良き妻”でいようと心がけてきた。
それなのに・・・。
私は一体いつから、“妻であること“に息苦しさを感じるようになったんだろう。
幸福な妻
「それじゃ、麻由。俺はもう行くね。今日も残業で遅くなるから、先に寝てていいよ」
「わかった。気をつけて、いってらっしゃい」
月曜の朝。
大手町の総合商社・財務部で働く夫、浩平の朝は早い。
私は、29歳の時に5歳上の彼と結婚した。それから3年が経つが、彼は一貫して忙しそうにしている。
今日も朝から会議があるらしく、ピカピカに磨き上げられたオールデンの革靴を履いて、7時前に家を出ていった。
「さて…浩平も出かけたし、お掃除でもしようかな」
私たちは、浩平の父が所有している三鷹にあるマンションに住んでいる。住環境としては申し分ないが、浩平の会社まではやや遠い。
新宿にある大手損害保険会社で働く私は、彼より遅く家を出ても間に合う。だから、彼が出かけた後に、一通りの家事を済ませるのが日課だ。
浩平に出した朝食の食器を下げてキッチンを片付け、洗濯機を回して簡単に部屋を掃除していく。
― ああ、幸せ。
私は、出社前に家を整えるこの時間が、たまらなく好きだ。
自分が「社会人としてしっかりと働きながら、夫をキチンと支えている妻」なのだと思えてくる。そうすると、胸の内がなんともいえない充実感で満たされるのだ。
「そろそろ行かなくちゃ!出社前に“彼”の顔も見たいし…」
時計を見ると、いつのまにか8時を回っていた。
週初めの今日は、1週間の労働生活に向けて心も体もチャージしたい。
だから、出社前にどうしても“彼”に会いたいのだ。
私は、シャネルのローズ色のリップを唇に塗り、急いで家を出た。
この記事へのコメント